日本でのクリーニング店の始まり

日本でドライクリーニングの技術が伝わり、初めてクリーニング店ができたのは1859年、時代は江戸時代から明治時代へと転換期を迎える安政6年というのが定説です。一方、全国的に広まっていったのは戦後の落ち着きを取り戻してからですが、1957年の昭和32年には当時の厚生省(現在の厚生労働省)の提案で環境衛生業に関わる業態として組合の形成が促され、各都道府県にクリーニング環境衛生同業組合(現在の生活衛生同業組合)が設立されています。当時のクリーニング業者はそのほとんどが加盟し、東京にある全国クリーニング環境衛生同業組合連合会、通称、全ク連がまとめる形となっていました。

クリーニングは宅配が当たり前!?


今でこそ、都心に住む独身のビジネスマンなど都会暮らしの若い方を中心に宅配クリーニングは便利といわれていますが、そもそもクリーニングの歴史からいえば、クリーニングは宅配が当たり前の業界だったといえます。特に高齢の方や地方にお住まいの方なら、クリーニングは宅配してくれるのが当たり前でしょと思われることでしょう。昔はクリーニング店に限らず、酒店や米店など重い商品を中心に御用聞きと配達が当たり前でした。クリーニング店で店主やスタッフによる引取りや配達が始まったのは、1960年代といわれています。
当時はクリーニングの利用といえば、フォーマルウェアなどの高級品やパパのスーツや子供の学生服などが基本で、ファミリー世帯も多かったので夏の終わりや冬の終わりに家族のものをまとめて出すのが一般的でした。また、今のように格安で布団を丸洗いできるようなコインランドリーもなかったので、かさばる寝具類やカーペットなどもクリーニングに出していました。寝具や家族分の服を依頼するうえで、自分で持って行ったり取りに行ったりするのは大変であり、自ずと引取りや配達が始まったともいえます。なお、御用聞き文化は1980年代頃までは地方を中心に続いてきましたが、車社会の対応や共働き世帯の増加で留守の家が増えたこと、スーパーやコンビニで気軽にお酒やお米が買えるようになって、酒店や米店の一般家庭向けの御用聞きと配達文化は次第に失われていきました。これに対して、クリーニング店の引取りや配達のサービスは、時代が代わって、店のスタッフによる直接の配達だけでなく、宅配便を使ったサービスが加わっても、今も生きているといえます。

ライフスタイルの変化に伴う駅前店や商業施設内店の増加


もっとも、クリーニング店の宅配・配達文化も一時期、失われそうな危機に直面した時代もありました。1つには人が集まる便利な場所にっできた駅前店や商業施設内店の増加です。共働き世帯や単身世帯の増加や都心部を中心に、街中のクリーニング店の営業時間では利用しにくい人が増えてきました。一般的な個人店は朝9時から夕方17時までといったところが多く、仕事から帰ってきて夜に配達してといっても無理です。そこで、チェーン店などが駅前に出店することで、朝の通勤時にクリーニングを出し、仕事帰りに受け取って帰るといった形態が誕生したのです。また、スーパーなどの商業施設の一角に取次ぎをするだけの小さな店舗を出すケースも増えてきました。スーパーの営業時間に合わせて営業し、スーパーを利用する主婦や仕事帰りに買い物に来る人が、ついでにクリーニングを利用するというスタイルです。いつも行っているスーパーに行くついでに依頼して、また次に行くときに取りに行けばよく、専業主婦から共働きの主婦やスーパーを利用する男性などにも利用者を集めました。こうした駅前店や商業施設内店は、どこから利用客がやってくるか分かりません。近所の方を中心に利用される街中店と異なり、駅やお店を利用する人の商圏は幅広いため、個別に配達の要望に応えるといったサービスはしないのが基本です。

配達しない格安チェーン型のクリーニング店


さらにバブルが弾けて、世の中が格安商品や格安サービス合戦になると、クリーニング業界にも格安チェーン店が登場します。Yシャツ1枚数百円といった格安の価格で人気を集めますが、安い代わりに人件費などは最小限に抑えるので、引取りや配達はしてくれません。来店型が基本ゆえの格安料金というわけです。もっとも、これにも変化が生まれ、最近はあれだけ台頭してどんどん数を増やした格安チェーン店の閉店も相次いでいます。

再び都会を中心に新たなタイプの宅配サービスがスタート


何でもネットで安く品物が買え、すぐに自宅まで届けてもらえる環境が当たり前になった中で、いかに安くてもわざわざお店に行くのは面倒という方も増えてきました。そこで、近年は従来のクリーニング店による配達サービスに加えて、店舗を持たずに配達や宅配便を使った宅配専門のクリーニング店が登場してきました。特に都心部では賃料も高いことから、店舗を構えて来店する客を待っているだけではやっていけないケースも増えており、宅配便の利用など少しサービス形態は進化をしていますが、再び宅配クリーニングが主流となってきています。


クリーニングの歴史は長きにわたって配達が基本でした。ライフスタイルの変化や単身世帯の増加などで配達サービスが使いにくくなり、駅前店や商業施設内店、格安チェーン店の台頭により、配達をしない店も増えてきました。一方、再び時代は変わり、利便性を求める若い世代と賃料の高い都心部で店舗を持てないクリーニング業者のニーズがマッチして、宅配便を加えた宅配クリーニングが再び台頭しています。